大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和45年(借チ)1006号 決定

〔主文〕1 申立人が別紙目録(三)記載の改築をすることを許可する。

2 申立人は相手方に対し金一三三、〇〇〇円を支払え。

3 本件賃貸借契約の賃料を本裁判確定の月の翌月から月額3.3平方米当り金六八円三一銭と定める。

〔理由〕一 本件申立の趣旨

1 申立人は、昭和二七年二月二三日相手方から別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を、非堅固な建物所有の目的、期間昭和四七年二月二二日までの約で賃借した。

2 申立人は、本件土地のうえに別紙目録(二)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有しているが、これを同目録(三)記載のとおり改築したいと計画し、本件賃貸借契約には増改築禁止の特約が存するので、右改築につき相手方の承諾を求めたが拒絶されたので、右承諾に代わる許可を求める。

二 当裁判所の判断

1 本件で取調べた資料によれば、前記一の事実のほか、申立人は、当初相手方先代から本件土地を賃借していたが、本件土地が相手方所有になつたので、前記一記載の日時にあらためて相手方との間に賃貸借契約を結んだこと、申立人は、本件土地上に、昭和二七年ごろ、六畳、三畳、玄関の建物を建築したが、その後増改築を重ね本件建物になつた各事実を認めることができ、かつ、申立人の改築計画は、土地の利用上および法令の制限上相当であると認められる。

相手方は、本件賃貸借契約の期間満了時までわずかしかなく、右時点で更新を拒絶して土地の明渡を求めたいので本件改築を許可するのは相当でないと主張する。ところで本件におけるごとく、残存期間が短く、地主において期間満了時に更新を拒絶する意思を有する場合には、右拒絶に正当な事由が存する可能性が相当存する場合にかぎり、改築による地主の買取請求価格の増額が借主のこれによる利益をうわまわるものとして、これを許すべきでないと解されるが、本件の資料によれば、現段階で相手方において、更新時に正当事由が存する可能性が相当あるとはいえないので、相手方の右主張は採用しない。他に申立人の改築を不当とする事由はないので、本件申立は認容すべきである。

2 附随の処分につき検討する。

(一) 鑑定委員会の意見の要旨は、「借地人に一時金として金一、一八七、〇〇〇円の財産上の給付をさせ、地代を月額3.3平方米当り金六八円三一銭とするのを相当である。一時金の算定方法は、得べかりし更新料の損失と耐用年数の延長による損失の合計額とする。すなわち(イ)本件土地の更地価格は一平方米当り金六九、〇〇〇円合計金六、六七七、〇〇〇円(96.77平方米)であり、二年後の期間満了時における更新料(更地価格の一〇%の年七%の割合による複利現価を求めると金五八三、一九四円となる。

6,677,000円×0.1×0.873438

÷583,194円

(ロ)本件建物の物理的耐用年数はあと一五年であり、増改築による期間延長は五年とし、その間経済賃料(更地価格の年六%に必要経費金一九、〇〇〇円を加える。)と後記改訂賃料(年額金二四、〇三六円)の差額の年金現価は金一、六六六、一九九円となる。

((6,677,000×0.06+19,000)

−24,036)×4,212≒1,666,199

これは一五年後に取得するものであるから、年七%の割合の複利現価は金六〇三、九〇一円となる。

1,666,199×0.362445≒603,901円

(イ)(ロ)の合計額が上記の一時給付金とする。賃料は近隣地代および過去の地代との関係を考慮し一平方米当り金二〇円七〇銭とする。」というにある。

(二) ところで、増改築の許可の裁判は、当該増改築につき、増改築禁止の特約を一時的に排除し、特約の存しない状態に至らしめるものと解され、これにともなう財産上の給付額は、右許可により受ける賃借人の利益のうち賃貸人の蒙むる不利益の限度において調整することになる。

しかして、申立人の改築計画は前示のとおりであり、増改築制限特約の締結につき、特段の事由の認めえない本件において、賃貸人は、右特約により、朽廃による借地権の消滅の期待を有するが、本件改築により、右朽廃時期を遅らせる不利益を賃貸人に与える。(また、改築により、借地権消滅の際買取価格が増大することによる不利益があるが、現時点で借地権消滅の時点を予想することは不可能であるから、右不利益を財産上の給付額決定の基礎にするのは相当でない。)

そこで、右のごとき、朽廃時点の遅れによる借地期間の延長による不利益を本件においてみるに、本件建物は、老朽化しつつあるとはいえ、いまだ朽廃にはほど遠く、現時点で朽廃時点を確定することはできず、したがつて、右不利益を計数上正確に算定することは困難であつて、世上行われる改築承諾料(更新料を含むものはこの点を修正したもの)を基礎として当該建物の老朽度を判断して決するのほかはなく、以上の事実を本件建物にあてはめ、なお、従前の裁判例を参考にして、本件における財産上の給付額を鑑定委員会の定める更地価格(一平方米当り金六九、〇〇〇円)の二%にあたる金一三三、〇〇〇円(千以下切捨て)と定めるのを相当とする。

また、地代は、やや低額であるので、この際改訂することとし、鑑定委員会の意見のとおり本裁判確定の月の翌月から3.3平方米当り金六八円三一銭と定める。

(三) 鑑定委員会の意見につき付言する。

鑑定委員会は、朽廃時点の延長による不利益を本件建物の朽廃時点を一五年先、改築建物を二〇年先とし、その間の経済賃料と実際賃料の差額を基礎として算定しようとする。右見解は傾聴に価いするものがあるが、建物は、一般にそこに人が居住し、必要な修繕をほどこすかぎり容易に朽廃せず、本件建物が一五年後に朽廃すると確定する前提に疑問があるので、右のごとき算定方法は採用しない。

また、鑑定委員会は許可の裁判により期間が延長されることを前提として、その間の更新料を給付金算定の基礎とする。しかし、当裁判所は、増改築許可の裁判により当然に期間の延長がなされるものでなく、また、地主が期間満了時に更新を拒絶する意思を有する本件において、附随処分として期間を延長するのは相当でない。けだし、期間を延長しなくても、借地人が改築をする目的は一応達せられるというべきであり、他方、更新拒絶は現在ほとんど唯一の借地返還の機会であつて、これをめぐる利害は重大であるが、期間満了時における正当事由の有無を現時点で正確に判定することは困難であつて、不正確さを前提として裁判することは当事者に不測の損害を与える虞れがあるうえ、更新時にいわゆる更新料の支払が相当広く行われているが、いまだ慣習法として成熟しているとはいえず、法定更新の規定上裁判上強制することには疑問があるが、この支払いを考慮せず、期間を延長するのは賃貸人への不利益が大きいというべく、右の利害は、結局更新時における当事者の協議に任せるのを相当とするからである。(筧康生)

目録

(土地)

東京都板橋区桜川町三丁目五六番 宅地 336.85平方米(101.90坪)のうち、

96.69平方米(29.25坪)

(契約書上は105.78平方米(三二坪))

(現存建物)

東京都板橋区桜川三丁目一七番六号

家屋番号 五〇二四番二

木造瓦葺二階建

居宅、共同住宅

(登記簿上)

一階二階各42.97平方米(一三坪)

(現況)

一階 85.95平方米(二六坪)

二階 66.94平方米(20.25坪)

改築計画

(二)の建物を取りこわし

木造瓦葺二階建住居兼車庫一棟

一階 32.6平方米

二階 29.16平方米

を建築する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!